🔍 日本神話の機密をポロリ『古語拾遺』の訳
『古語拾遺』の【第1部】では、斎部家に封印されてきた『先祖の古文書』を書き写しています。 これを見ると…… 『日本神話』は側近貴族の政治的な意図によって作られた〝創作物〟で、その後の時代に、別人によって何度かリライトされるごとに、どんどん内容が豪華になり、設定も変わり、家系図もいろいろ入れ替わっていったことが分かります。 ・ ・ 【前回の話】あら? 非常にシンプル。 しかも、『神話』の初期構想では、子どもは3人(天照大神・月読命・素戔嗚尊)ではなく2人? イザナミは『火の神』生まずにヤケドせず生きてる? ・ ・ それが、その後の時代(数世紀後)に書き直された『古事記』では、こうなります。『神話』の初期構想と見比べてみてください。伝承では、日本は伊弉諾様と伊弉冉様という神々のご夫婦から始まりました。彼らの力で日本の国土や自然が生まれ、その後、このご夫婦は、日の神と月の神をお生みになりました。
という感じに、物語性が進化しているわけです。 何も知らない状態で見ると、『古語拾遺』は『古事記』の劣化版で、テキトーなことを書いているように見えるのですが、実はこちらが原形。 これが下書き状態で、この後時代が進んでどのように物語が書き換えられて完成に至ったか? というのがわかる、貴重な資料となっているのです。 ・ ・ 設定の書き換えは、まだまだありますよ! 今回は〝天御中主神〟に関する初期設定のシーンです。昔々、イザナギ様とイザナミ様という神様が、高天原の神様(カムロギ・カムロミ)の命を受けて地上に降り、『天の浮橋』から天の日矛で『おのころ島』をはじめとする大地を作りました。 この島で、彼らは夫婦となったのですが、多くの島々や神々を生み出したときに、火の神のヤケドで妻は亡くなってしまいました。 黄泉の国(死者の国)へと旅立った妻を追って、イザナギ様も黄泉の国へ行きますが、ゾンビに追いかけられ、地上に逃げ帰ります。 イザナギ様が穢れた身体を清めようと、川で禊ぎをしたときに、彼の身から3人の神々が生まれました。 左目から 天照大御神、右目から 月読命、鼻から 素戔嗚尊です
📺 『古語拾遺』の原文と直訳
【原文と直訳】(天御中主神)
又 天地割判之初 天中所生之神 名曰 天御中主 神 次 高皇産靈 神 《古語 多賀美武須比 是 皇親・神留伎命》 次 神産靈 神 《是 皇親・神留彌 此神子天兒屋命 中臣朝臣祖》
天地割判の初めに 天中に現れた神の名は 天御中主神 次に 高皇産靈神 ➙《古語 多賀美武須比 で皇親・神留伎命のこと》 次に 神産靈神 ➙《皇親・神留彌命で この神の子 天兒屋命は 中臣朝臣の祖》
其 高皇産靈神 所生之女 名曰 栲幡千千姫命 ➙《天祖・天津彦尊之母也》 其男 名曰 天忍日命 ➙《大伴宿禰祖也》 又男 名曰 天太玉命 ➙《齋部宿禰祖也》
その 高皇産靈神 が生んだ女神の名は 栲幡千千姫命 ➙《天祖・天津彦尊の母》 その男神の名は天忍日命 ➙《大伴宿禰の祖》 また その男神の名は天太玉命 ➙《齋部宿禰の祖》
太玉命 所率神 名曰 天日鷲命 《阿波国忌部等祖也》 手置帆負命 《讚岐国忌部祖也》 産狹知命 《紀伊国忌部祖也》 櫛明玉命 《出雲国・玉作祖也》 天目一箇命 《筑紫・伊勢兩国忌部祖也》
太玉命 が率いる神の名は 天日鷲命 ➙《阿波国忌部等の祖》 手置帆負命 ➙《讚岐国忌部の祖》 産狹知命 ➙《紀伊国忌部の祖》 櫛明玉命 ➙《出雲国・玉作の祖》 天目一箇命 ➙《筑紫・伊勢両国忌部の祖》
なんか表現が古くありません? 私の頭では、意味がわかんにゃい…… |
( ⇲ 新ウインドウで『古事記』該当部分へのLINKあり)
さらに天地が分かれ始めたその時、天の中央に最初にお生まれになった神様がいらっしゃいました。 その神様は「天御中主神」と名付けられました。 続いて、「高皇産霊神」という神様が現れました。 この神様は、古い文字では「多賀美武須比」と書かれ、皇室と非常に深い関係を持ってました。 その後に現れたのが「神皇産霊神」という神様。 この神様もまた、古い文字では「皇親・神留彌命」と書かれ、そのお子様が「天児屋命」です。この天児屋命は、中臣朝臣の先祖にあたります。 高皇産霊神の娘は、「栲幡千千姫命」と名付けられ、彼女は「天祖・天津彦尊」のお母様です。 そして、その彼女の息子の名は「天忍日命」(→ 天津彦尊のこと)、大伴宿禰のご先祖様です。 また、別の子は「天太玉命」と名付けられました。 こちらは斎部宿禰の先祖となります。 天太玉命が率いる神々には、さまざまな神様がいらっしゃり 「天日鷲命」➙ 阿波国忌部等 のご先祖様 「手置帆負命」➙ 讃岐国忌部 のご先祖様 「彦狭知命」➙ 紀伊国忌部 のご先祖様 「櫛明玉命」➙ 出雲国・玉作 のご先祖様 「天目一箇命」➙ 筑紫・伊勢両国忌部 のご先祖様 このようになっております。
📼 作者の斎部廣成 一人語り風
えー、これは昔々のことの説明でございますな。 日本の古代神話を、遡って説明しますと… 天地が分かれた初め、最初にお生まれになった神様は天御中主神 。 その後に高皇産霊神 と神皇産霊神 が生まれましてな。 この後にゴチャゴチャ家系図が続くわけでございますが、後の『古事記』では、いくつか設定が改められたようでございますな。 ・ ・ ここに書かれている、神武天皇の側近の臣下は、天太玉命の命令を受けて、それぞれの地に飛んで、その地の神(主)として、立派に役目を果たされたとのことですわ。 それぞれの名前の由来はこうですわ。 ◆「天日鷲命」 ・-・-・-・-・-・-・-・-・- 天の日鷲とは、阿波国の元々の地方豪族の主に成り代わって、天より『新たな統率者』が舞い降りたことを意味しておりますな。阿波国は当時、大きな集落で、軍事的にも重要拠点。そこに力のある臣下を配置したことで、政権を安定させる意図があったのでしょうな。 ◆「手置帆負命」 ・-・-・-・-・-・-・-・-・- 帆船を製作する命を受けた技能集団。船の帆は一般の布より頑丈さが求められますから、特別な技能集団にしか作れなかったのですな。舟本体(手置き)、帆織いの技能集団のリーダーのことですな。 ◆「彦狭知命」 ・-・-・-・-・-・-・-・-・- 天津彦尊のことを指し、「彼を直接知る人」つまり、彼の相棒のことを指すのでしょう。 ◆「櫛明玉命」 ・-・-・-・-・-・-・-・-・- 櫛とは「頭髪」のこと。明玉とは「髪飾り」のこと。 勾玉や宝石などを作っていた、神宝の生産部、打ち出の小槌氏ですな。 彼が手を動かすと、宝が出来上がる。 天岩戸の時や出雲の物語(八岐大蛇)にも特別出演する人物でございます。 ◆「天目一箇命」 ・-・-・-・-・-・-・-・-・- こちらは青銅器の製造部隊。特に『伊勢の親方』の方は、天岩戸の八咫鏡作りで名を上げましたな。 なお「鏡」とは光を全反射するアレのことではなく、銅鏡のことですわ。 ただ、造った直後は新品の10円玉のような、美しい輝きを持っておりました。 酸化するから、青い銅の色に変わるのですな。
このように、最初から『神話』の物語作成と、家系図はセットなのですわ。 これは、『神武天皇』だけでなく、ご子息の皇族様や〝官位〟つきの家系までも、神格化する意図がございましてな。 このような、先祖の伝説が残る〝官位〟つきの家系は、その家系に産まれた私のような者が、先祖に誇りを持ち、陛下を支え、決して背かなくなる動機となるのでございます……。
🎓 『古語拾遺』を理解する、分かりやすい解説
天皇側近の貴族が書いた〝物語の初期設定〟では、全てを生み出した伊弉諾&伊弉冉神の下で天地が分かれ、「天御中主神」が現れたという形になっています。 『古事記』や『日本書紀』の形とは順番が逆。 当初の設定では、それだけ『神武天皇』の権力の偉大さを強調しようとしていたわけです。 先の解説の通り、古代王朝の作成する神話は、政治的な権威と結びついています。 『古事記』の序文では、時の天皇の命によって、『各地の口伝伝承』の中身をまとめ上げた と書かれていますが、それより前の時代の、斎部家の先祖が残した『神話の原本』…… 今回の書のほうでは、『各地の口伝伝承』として降ろす前の原本が見えているわけです。 今回の書は『先祖の古文書』を写し取った部分なので、意図せずそれが〝神話の原本流出〟につながってしまった。 当時の国政の根幹を揺るがすレベルの、機密流出事件だったのです。 それは、たとえ現天皇相手であったとしても、外に出してはいけないものだった。 本来、決して人目に触れてはいけないものを、表に出してしまった。 ・ ・『神話』は各地で土地代々語り継がれてた伝承を、あとからまとめたように見えますが、実際には、それらの神話は先に創作され、後から特定の〝語り部〟を通して、地域や文化に降ろされているのです。